重大交通事故と捜査ミス

2012年04月06日 · 未分類

交通事故の大半を占める比較的単純軽微な追突交通事故などは、軽傷人身事故、物損交通事故ともに相当大雑把な事情聴取でも捜査ミスというものは生じにくいと思います。また仮に捜査ミスがあったとしてもそれが問題になることはほとんどありません。それは刑事事件であっても民事事件であっても、事故の原因が追突した方の一方的責任を追及すればよいからです。「前の車が急に止まったのが悪い」など一応の弁明は聞くのですが、「前の車が急に止まったのなら、後ろを走ってたあなたも急に止まれば事故は起こらなかった」と強引な説明をされたら返す言葉もなく、事故処理は警察主導で進んでいきます。だだし、念のため付け加えるならば、見通しの良い直線道路などでの単純な追突事故ほど、追突した運転手の過失を特定することは非常に難しく、正確な事故処理がなされているかは大いに疑問があります。
本題にもどって、死亡事故や重傷事故など重大な人身被害をともなう交通事故の捜査は、警察組織による捜査体制で処理するので捜査ミスは生じることはない、担当警察官の判断ミスは組織力が修正して適正捜査が推進されるはず、と思われがちです。しかし、多くの場合、事案の軽重は死傷の有無にかかわらず一件の交通事故は、実況見分官と呼ばれる一人の警察官の判断によって進められます。そして実況見分官とは、交通事故の交通工学、交通鑑識など特殊技能を習得した固有の警察官ではなく、辞令によって配置された普通の警察官です。実況見分官だけでなく捜査官や指導官、管理官、監察官などたくさんの名称がありますが、全ては役職であってもとをたどれば、どれも都道府県警察官です。例えば新人警察官が事故現場に臨場して当事者から状況を聴取すれば、その警察官が捜査官であり、事故の実況書面を作成すれば実況見分官となるのです。
死亡事故や重傷事故では新任警察官が当該事故の実況見分を行うことは少ないと思いますが、それでも交通事故捜査係に配置されれば1年もしないうちに、死亡事故を取り扱うことは多々あり得ることです。また、ベテランの事故捜査係員であっても、事故現場で実況見分に要する時間は2時間から長くても3時間程度です。その中で複雑な痕跡を記録したり、事情聴取したり、指示説明を求めたりして事故の形態と過失の認定を行うことになります。実況見分官の資質や捜査能力、経験などの違いによって捜査結果に影響を及ぼすことが起こってしまうのです。もちろん上司や先輩方の指導ということもありあす。すると上司の指導によって実況見分官の捜査の方向性も変わってしまうことも起こってしまいます。そこにでは当事者不在の事故処理方針が決定されていくのです。死亡事故の場合は、死者の弁明も入らず、まして遺族が死者に変わって弁明するなどということもできません。結局は複雑な要因によって発生した交通事故で、複雑な痕跡、挙動の中から、被疑者を自動車運転過失致死傷罪で刑事処罰を立件するための捜査活動によって取捨選択が行われ事件終結を迎えることになるのです。重大交通事故によって組織捜査が開始されると、実況見分官個人の捜査ミスに加えて、それ以上に組織的に事実が変更されて捜査の方向性が決定されてしまうところに恐ろしさがあるのです。組織の中では個人は歯車の一部となり、正しいことが正しいと主張できない、という理不尽な思いを多くの方も経験されておわかりだと思います。

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